そんな場合、つまりほとんどの場合、家庭教師の使命は、子どもの成績を上げることになります。家庭教師をつけたのに成績が上がらないとか、ましてや成績が下がったとかなれば、家庭教師は信用を失います。なんのために教えにきているのだということになってしまいます。
けれど、いったん学校の成績は考えないことにしていただきたいのです。逆説的ですが、それが成績を上げる最も早道です。
なぜなら、学校の成績が上がらないのには原因があるからです。その原因はほとんどの場合、現在習っている内容ではありません。現在の学習とは無関係なその原因を解消しないで目先のテストの点数を上げることだけを追い求めたら、たしかに次のテストの点数は少しだけ上がるかもしれません。けれど、その先で、また落ち込むこと請け合いです。成績が上がらない原因が残ったままだからです。
ですから、次のテスト、その次のテスト、場合によってはこの先1年ぐらいの成績アップはいったんあきらめてください。そして、数ヶ月とか1年とかいった気長な時間をかけて、成績が上がらない原因を解消していきます。学校の勉強を追いかけるのは、そのあとで十分です。
「原因」は、最も単純な場合は過去の学習の記憶違いや脱落、誤りです。こういう場合には、その部分を見つけ、復習を徹底すれば解消します。けれど、そんな単純な原因ではない場合も少なくありません。
たとえば、「勉強」というものに対する思いちがいが成績が上がらない原因になっている場合もあります。ある生徒は、勉強とは与えられた課題をこなしていくことだとかんちがいしていました。漢字の書き取りをするようにいわれればそれを決められただけやる、計算ドリルをするようにいわれればそれを機械的にこなす。それが勉強だと思い込んでいました。そのような姿勢では、だんだんと学習内容が深まっていくとついていけなくなります。それは勉強の外側をなぞっている行為でしかないからです。本当は、その課題の内側にある考え方を身につけなければいけないのに、それを雑音だとシャットアウトしてしまうことにさえなってしまいます。こういった性癖は、学校生活で長年にわたって培われるので、言葉で説明しただけではわかりません。実際に考える体験、考えることによって発見する喜びを味わってもらわないことには、改善できません。だから、時間がかかります。
時間をかける価値はあるのです。いったん原因が取り除かれたら、そこから先はスピードアップです。どんどん追いつき、追い越していけます。事実として、学校教育で身につけなければならない知識や技能は、実はそれほど多くありません。だからこそ、急がばまわれが可能なのです。はるか先にいってしまって追いつけないように思えるときでも、追いつくための足かせがなければ、あっさりと追いつけるものです。だからこそ、その邪魔になっている原因を取り除く必要があるのです。
成績のことは、とりあえずは無視しましょう。それが成績アップへの最短距離なのですから。