この地域では概ね、中学3年生の二学期末に学校で開かれる懇談会(三者面談)で進路が決定します。最終決定を1月の懇談とする学校も少なくはないのですが、その場合でも二学期末に絞り込んだ志望校を最終的に実力テストの結果で判定するだけなので、実質的には12月の初旬から中旬にかけて受験する高校が決まります。そこからが、「受験勉強」のスタートです。
冒頭にリンクをつけた記事でも書きましたが、受験勉強は完全に「何点上げるか」だけのゲームになります。ここが、通常の「勉強」と大きくちがうところです。もちろん、このブログで力説している「学習」とはまったく性格が異なります。
どういうことかといえば、ここから先は「傾向と対策」に特化すべきだからです。そして、出題傾向が受験先の学校によってちがう以上、その対策はひとつひとつ異なっています。これは特に、私立高校の対策で顕著になります。
たとえば数学ひとつとっても、ある生徒が受ける高校は3年生の終わりにかけて学ぶ三平方の定理や円周角は過去に一回も出題されたことがなく、平均値や度数分布を扱う統計の問題も出ません。その一方で、二次関数の問題や確率の問題は必ず出題されています。となれば、出ない範囲については何一つ触る必要がなく、出る範囲だけに特化すればいいことになります。しかも、出題の傾向がほぼ読めるので、同じタイプの問題ばかり繰り返して訓練すれば点数は上がります。図形に関しては相似しか出ないわけですが、この生徒はそこは苦手としているので、それに関しては捨てさせます。それでも他をとれば十分に合格点には足りるという判断ですね。
また別の生徒の受ける学校は最低合格点がかなり高く、75%程度は正解しなければ合格できません。この場合は捨てる問題があっては勝負になりませんが、そういう学校を受ける生徒ですから多くの問題には対処できます。その中でも特に空間図形の問題を落とす傾向が過去問題の分析から明らかになってくるので、そこばかり集中して何題も反復します。
こんなふうに反復練習をする際に重要になるのが過去問題です。そしてこれは、考え方の異なった2種類を用意する必要があります。
まずひとつは、生徒が個人で用意する志望校の過去問題集です。「赤本」と呼ばれるタイプのもので、多くの場合、過去5年分の入試問題を収録した冊子が販売されていますから、これを購入してもらいます。この冊子には、学校によっては最低合格点が明記されているので、参考情報としても貴重なものです。ただし、この「赤本」で勉強するのではありません。ここがポイントです。
もうひとつは、志望校以外の学校の過去入試問題です。これは膨大な数になりますから、もちろん生徒個人が用意するものではありません。家庭教師が収集することになります。かつてそういう情報源としては通称「電話帳」と呼ばれる「全国高校入試問題集」という分厚い本を購入するのが最も手軽で確実な方法でしたが、現代では主要な都道府県の過去問題はWeb上で公開されています。私立高校の中にも過去問題を公開しているところは少なくありません。本来これらの問題は使用者(つまり受験生)が参考にするためのものであって家庭教師がそれらの情報を再配布するためのものではないわけですが、生徒の代理として検索し、ダウンロード・プリントアウトするのだという立場に立って限定的に使う分には著作権法条問題にあたる再配布には該当しないと考えられます。そこで、できるだけこれらの過去問題の情報を収集しておくことが、家庭教師のしておくべき準備です。
さて、志望校の過去問題、いわゆる赤本は、まずなによりも生徒の到達度を判定するためのツールとして使います。過去問題を1年分だけやらせてみてそれが合格点を上回っていれば、もう何もする必要はありません。もちろん余裕をもって合格するためにある程度の勉強はしたほうがいいでしょうが、特別な受験勉強は不要でしょう。
しかし、多くの場合、やらせてみると合格点を下回ります。そこからまず、解けなかった問題を特定し、その問題がどのような傾向のなかで出題されているのかを赤本を睨んで分析します。分析の結果、出題されそうな傾向が判定できます。
ここからは、他校の過去問題を使います。数多くの過去問題を探せば、必ず似たような傾向の問題がいくつも見つかるものです。それをプリントアウトして、反復練習です。家庭教師にとっては気楽な受験勉強の始まりです。
そして、十分に反復が済んだところで、また一年分、過去問題を解かせます。ここで得点が上がっていなければ、それは反復練習の量が足りなかったか、やり方を間違えたかのどちらかです。しかし、ふつうそういうことはありませんから、得点はやった分だけ上がっています。それで合格点に達していれば良し、達していなければ、次の課題を発見して、また反復を繰り返します。
これだけの単純なことをやっていれば、高校入試に失敗することはありません。もちろん、実力以上の高校を志望した場合には、それでもリスクは残ります。そういう危険な博打をせずに済ませるには、やはり基礎的な理解力や思考能力を上げておくしかありません。そして、そういった本当の意味での学習は、こんな気楽な「傾向と対策」の反復練習では絶対に身につかないものです。
受験勉強でどんどん点が上がっていくのを体験した生徒は、「なぜもっと早くにこういう指導をしてくれなかったのか」と思うことでしょう。それは無理な話です。それをしなかったから、この時期に伸びることができるのですから。