そして、家庭教師を依頼するご家庭にとっても、これはメリットのあることと考えられています。なぜなら、現役の学生は高校、大学と受験を勝ち抜いてきた受験のベテランです。特に有名高校出身、一流大学在学中といった経歴があれば、「その合格テクニックをぜひうちの子にも授けてやってほしい」と考えるのは自然なことでしょう。
けれど、一歩引いて考えてみましょう。本当にそうなのでしょうか。
根本的な問題は、受験とはテクニックではないということです。ここを多くの御家庭が誤解されているので、何度でも強調します。入学試験は、受験技術をもった生徒を選別するためのものではありません。そうではなく、その学校で学ぶのにふさわしい生徒を選別する目的でおこなわれます。試験問題は、その学校のカリキュラムに必要な基礎学力があるかどうかを試すものであり、したがって、これにテクニックで対処しようとするのは邪道です。王道は、きちんとした基礎学力をつけ、その上に応用力を育てていくことです。これは、「こういうタイプの問題はこのパターンで解けばいい!」といったテクニックとは全く異質のものです。こういうテクニックは、受験以外にはまったく役に立ちません。なんの実用性もない訓練をさせることに意味はありません。
「それは理想論かもしれないけれど、現実に受験テクニックで合格する生徒がいるじゃないか。むしろそっちのほうが普通じゃないか」と、指摘する方もいらっしゃることでしょう。現実に塾や家庭教師が教えるのは受験テクニックであり、それでもって多くの生徒が志望校に合格している実態を、私は否定するつもりはありません。だからこそ、現役の大学生が教えるのは、受験テクニックそのものです。それはなんとももったいないことだなあと思うのです。
なぜなら、解けない問題が目の前にあったときに、それを解くテクニックを教えることはかんたんです。そして、生徒の側もそれで満足します。解けなかった問題が解けるようになるからです。一方、解けない原因を探り、その根本に立ち返って基礎学習からメンテナンスをしていくことは、時間がかかります。きちんと方針の理解を求めておかないと、生徒の方も「なんでこんなことをしているんだ」と苛つくことでしょう。
けれど、最終的には、後者のほうが早道なのです。なぜなら、次のわからない問題が出てきたとき、テクニックで対処しようとするのなら、新たなテクニックを覚えなければなりません。ところが基礎をきっちりメンテしてきた生徒は、その問題を自力で乗り越えます。さらに次の問題、その次の問題と進んだときには、差は歴然とします。実は、細かなテクニックなんか無視して、正直に基礎学力の上に応用力を積み上げる実践を続けるほうが、最終的にはずっと時間も手間もかかりません。
それだけではありません。受験が終わった後、受験テクニックはなんの役にも立ちません。せいぜい、家庭教師にでもなって同じ技術を後輩に伝え、それで稼ぐことぐらいにしか役立たないでしょう。ところが、身についた基礎学力と応用力は、先に進んで大きな武器になります。上級の学校での勉強はもちろん、社会に出たあとでもいつまでもその人の財産であり続けるのです。
残念なことに受験テクニックで受験競争を勝ち抜いてきた学生たちには、この単純な原理がわかっていません。だからこそ、自分自身の小さな成功体験にもとづいて、受験テクニックを教えます。生徒も家庭も「受験勉強なんてそんなものだ」と信じて疑わないので、この世界はこれで完結してしまいます。
本当は、べつの方法があるのです。もっと苦労せず、もっと長続きする本物を手に入れられる方法があります。特別なものではありません。それに気がつくかどうかが分かれ目です。下手に受験競争を勝ち抜いてきた学生には、そこが見えません。
だからこそ、私はこの仕事が面白いなあと感じているのです。