というような大義名分を唱えたところで、成績がテストによって決まる以上(そして成績がいいのにこしたことがない以上)、テストが近づいたらなにか対策をしたくなる、するべきだと考えるのは、当然といえば当然です。建前はともかく現実は試験対策をしないわけにいかないので、今回は具体的にどうすればいいのかをすこし書いてみましょう。
まず、英語、国語は直前の対策でたいして点数が上がるものではありません。語学系の教科は長期にわたる積み上げが重要です。急場しのぎの対策はありません。
ちなみに、長期的な対策としてもっとも重要なのは、どちらも「読む」ことです。とくに国語の「読解力」は、その人がどれだけ本を読んできたかによって直接きまるものです。そして、読解力は国語のテストだけではなく、あらゆる教科のテストの点数を底上げします。なぜなら、すべてのテストは日本語で書かれているからです。極端な話、教科の内容が全くわからなくても、読解力と常識だけで点数のとれる問題が必ずあるものです。だから、本を読めば点数は上がります。(実際にそうなるわけではないのですが)イメージとして、「本を1冊読めば全教科の合計点数が1点上がる」と思ってください。本を20冊読めば20点、100冊読めば100点上がるイメージです。そうすると、読書がいかに重要かということと、それが試験直前対策としていかに役に立たないかということが同時に理解できると思います。読書家の中学生なら、小学校から中学にかけての数年で300冊ぐらいは本を読むことでしょう。そのぐらいの点数の差が、読書によって生まれているのだと考えてみてください。
英語についてはそこまで強力な影響が他の教科にまで及ぶことはありませんが、やはり読むことが基礎体力をつけ、じわじわと点数を上げていくのは同じことです。
ですから、直前対策としては国語なら文法をおさらいすること、もしもテスト範囲に古文や漢文が入っているのならその部分の解説を十分に読んでおくこと、あとは漢字の書きとりぐらいしかすることがありません。まあ気休め程度ですね。英語なら、もう少しすることはあります。教科書の各ページにはたいていそのページや単元で学習する重要構文が書いてありますから、それをさまざまな単語に置き換えて反復練習することです。もっともこれも、ある程度の基礎力があってこそはじめて有効になることです。そこまでの基礎力がなければ、教科書の音読と単語の書きとりぐらいしか対策はありません。ちなみに教科書の音読がなぜ有効かというと、定期テストの問題のなかには必ずほんのすこしは教科書の文そのままといっていい文が出てくるからです。最低限の点をそこで取りにいくという作戦ですね。
数学に関しては、もう少し有効な直前対策があります。問題集を買ってきて、該当範囲の問題を繰り返し解くことです。ただし、解き方がわからなければ繰り返しもできませんから、ここは塾や家庭教師の出番となります。塾や家庭教師は、「予想問題」の解き方を教え、それを繰り返し解かせてパターンを覚えこませることでテストの点数をアップします。これはけっこう目に見えた成果があります。語学系とちがって数学は、教師の力で点数を底上げしやすい教科なんですね。だから目の前の成果をあげるためにはまず数学を攻めるというのが塾や家庭教師の常識になっています。
ただし、私はこの方法をむやみやたらと濫用すべきではないと思います。というのは、その繰り返し練習を実行できるだけの基礎が整っているかどうかを確認しないでこれをやると、基礎のない土台の上に家を建てるような危険な状態が発生するからです。その結果がどういう悲惨な状況を生み出すかは、別の記事でしつこいぐらいに書いてきました。根本に立ち返って言うなら、数学だってやっぱり積み上げです。直前の継ぎあてはできますが、継ぎ接ぎだらけの布地にいつかほつれが出るように、あまり勧められた方法ではありません。こちらも時間をかけて基礎から確認していくのが本筋だと思います。その作業は生徒自身では不可能だし、カリキュラムに沿って進む塾でも困難です。家庭教師の出番だと考えています。
ただ、基礎力に関係なく「とりあえずこれやっとけば3点とか5点とか点数は上がる」的対策は、試験範囲によってはないことはないんですね。それは個別の試験範囲を見た上での話になります。一般論としては成り立ちません。
さて、理科、社会です。理科と社会は全く別の性格をもった教科ですが、取り組み方としては比較的似たようなアプローチが考えられます。高校にはいると理科は演習中心に比重を移していかなければならなくなりますが、とくに中学のうちは知識にかかわる部分が大きいので、「問題の解き方」よりは「どれだけ知っているか」で点数が決まってきます。
これは、理科、社会を「暗記科目」と位置づける考えかたの基礎となっている事実です。けれど、私はこれらの教科を「暗記」というキーワードでとらえるべきではないと考えています。それでは点がとれないのです。
「暗記」という考えかたの代表に「年代をゴロで覚える」というのがあります。「894(はくし)に戻す遣唐使」とかですね。けれど、この方法では点はとれません。なぜでしょう。それは、「遣唐使の廃止は何年か」みたいな問題がほぼ出ないからです。出るとしたら、「遣唐使の廃止によって成立した日本独特の文化を何というか」みたいな問題でしょう。これが平安時代の国風文化であると答えるために遣唐使の廃止の年代を覚えていればそれはそれで役に立ちますが、年代を正確に覚えていなくても前後関係を理解していれば解けるものです。あるいは、人名や地名を暗記しても、肝心の問題でその人名や地名が尋ねられているのだと読み解けなければやはり点にはつながりません。「足利義満」という将軍の名前を覚えていても、それが「金閣」や「北山文化」といった他のキーワードと結びついていなければ問題の答えは書けないのです。理科でも同じで、「アミラーゼ」とか「飽和水蒸気量」とかいった難しい言葉を知っていても、それがどこでどういう働きをしているのかを確実に身につけていなければ、その言葉を答えるべき問題でも正解が書けません。「それなら知っていたのに!」という悔しい言葉を教師は無数に耳にしてきています。知っていても解けないのは、それを「暗記」だと思い込んでいるからなのです。
ですから、理科、社会の場合でも、やっぱり理解の積み上げが重要になります。とはいえ、理科、社会は他の教科に比べて直前対策がしやすいし、その直前対策が数学のようにあとあとになって足を引っ張るようなこともおこりません。
なぜなら、理科や社会はそれぞれ広範な自然現象、社会現象を理解しようとする学問です。それぞれの扱う範囲は幅が広く、それでいて根っこのところでは皆ひとつにつながっています。このような学問では、入り口はどこでもいいのです。ですから、目の前の試験範囲が化学変化なら、生物や物理のことがまるでわからなくても、そこから勉強をはじめればいいのです。目の前の試験範囲がオーストラリアの地理なら、日本のことやヨーロッパのことを全く知らなくても、そこから勉強をはじめられます。順序にこだわる必要があまりないのが理科や社会の特徴です。そして、勉強したことは必ず次のステップの基礎になります。だから、それまでわからなかった範囲があったとしてもとりあえずはそこをほうっておいて該当範囲を勉強すればいいのです。取り残しておいた範囲は、最後に戻ればいいのです。そのときには、他の部分の学習が基礎になっていて理解がスムーズに進むはずです。
そして、理科、社会の試験直前対策として何よりもお勧めなのは、教科書を繰り返し読むことです。それも本文だけでなく、コラムや図表のキャプションまで、ていねいに読みます。目で追いかけるだけでなく、そこに書かれてある意味・内容を考えながら読みます(実はここで国語の「読解力」が必要になるのですが)。テストには、基本的には教科書に書かれてある以上のことは出ません。教科書に書かれてあることを完全に理解していれば(「完全に暗記していれば」ではないことに注意してください)、高得点がとれるのが理科、社会です。
もっとも楽しく、効果があるのは、親しい友達とペアを組んで、クイズの出しっこをすることです。出題側が教科書を見ながらその内容を解答側にクイズ形式で尋ねます。これを1時間もやったら、ずいぶんと自信がつくはずです。同じ程度の学力で気の合う相手を見つけるのはそれはそれでむずかしいのですが、やるだけの価値のある方法です。ぜひ試してみてください。