専願で通った生徒の1人は学校から得点の通知があったそうです。それによれば彼の合計点は合格最低ラインを3点しか上回らなかったとのこと。それでも合格は合格ですから胸を張っておめでとうです。なのですが、過去問でチェックしたときには合格点を70点ぐらいは余裕で上回る成績が出ていただけに、本人は相当なショックだったようです。かなり波のある生徒なので私はそれでも安心していませんでしたが、本人は十分な自信をもって臨んでいたようです。
「去年までの問題と、まったく傾向が変わっていたんですよ!」
というのが、彼の報告。どの程度変わっていたのかまでは確認していませんが、もしも大幅に変わっていたのだとしたら、確かに点はとれなかったでしょう。
というのは、私立高校の入試対策は、基本的には過去問題にもとづいた反復でしか行わないからです。これは、安定して同じ傾向の問題が出るという経験則にもとづいた作戦です。ただし、確かに5〜10年に一度は傾向が大きく変わる年があります。これは指導要領の変化を受けての場合もありますし、単純に入試担当者が交代したという場合もあるようです。そこは外部から読めないので、もしも大きく変化した年に当たったら、それは運が悪かったとしかいえないわけです。
受験勉強なんて、しょせんそんなものです。受験指導をする家庭教師がこういうことを言うのは変に聞こえるかもしれませんが、受験勉強で上げられるのは特定の傾向の問題の得点だけです。傾向が変われば、元の木阿弥。申し訳ありませんが、それ以上のことはできません。
もちろん、一部の学習塾や予備校では、「どんな問題が出ても大丈夫」と言い切れるような指導をします。どういうことかというと、つまり、あらゆる傾向の問題に対して反復練習をかけるわけです。こうすると、ほとんど穴のない得点マシーンができあがります。なんでも来いですね。ただし、その猛練習に耐えられるのはよっぽどの素質の生徒だけ。それを厳選してスパルタ式にやれば、傾向が変化したぐらいではびくともしないわけです。
そんな非人間的な教育を施す以外、受験競争に勝ち抜く方法はないのでしょうか。そうだと言ってもいいかもしれません。けれど、そう言ってしまった瞬間に家庭教師の仕事は終わりです。なぜなら、家庭教師は塾と違って生徒を選べないからです。学習塾は、平気で生徒を切り捨てます。そのあたりは、以前書いたとおりです。家庭教師にそれはできません。
では、どうするのか。それは、「対策」では解決できません。「対策」の基本は、反復です。それはもう疑いのない事実です。「こういう問題が出るよ」という設定に対してそれを解けるようにすればいいのですから、それがほぼ唯一の方法でしょう。しかし、その猛特訓に耐えられる生徒はごくわずかでしかありません。その方法は、現実には無理なのです。
ここで、一歩退いて考えてみましょう。前もって似たような問題を訓練しておかなければ、高校入試問題は解けないものなのでしょうか。否です。論理的に日本語で書かれた問題は、指導要領内の学習内容を理解さえしていれば、その問題に対する何の予備知識がなくても解けるものでなければなりません。事前の訓練がなければ解けないような出題は、基本的に禁じられているといってもいいでしょう。建前上は、中学での授業をきちんと受けてきた生徒なら全員が正解できるはずのレベルで出題するのが高校入試問題です。そして、この建前は、決してウソではありません。ただ、実用上はそうなっていないだけのことです(人間にはミスもありますし、思考のための時間もかかるので)。
そうはいいながら、教科内容をきちんと理解させること、そして何よりも与えられた課題に対して予断をもたずに取り組む姿勢と論理的に思考を展開する能力を養えば、実は対策なしで高得点をとることは可能です。そして、そんな理解や能力は、実は反復練習からは決して得られません。
今回、過去問題からの傾向の変化に振り回されて、改めて思いました。対策に終始する指導は、最後には苦労すると。できる限り、場当たり的な対策をせずに済むような本来の力を養う指導を心がけていきたいと、決意を新たにするばかりです。